入れ歯の洗い方では注意する点が5つあります。まずは普通の歯ブラシでは磨くことはしないでください。市販の歯磨き粉を使用することや、臭いや細菌が気になるからと一般家庭用漂白剤を使用することも、入れ歯には向いていません。入れ歯はシリコンやレジンで出来ているものが多いので、熱いお湯で洗うことや乾燥させることも、やってはいけないことです。ダメなことが多いと感じるかもしれませんが、覚えてしまえばそんなに難しいことはありません。毎日口の中に入れるものなので、口腔環境のためにも注意すべき点を、しっかりと身につけましょう。
入れ歯を普通の歯ブラシで磨く方がいますが、入れ歯は普通の歯ブラシでは磨いてはいけません。部分入れ歯だとつい、まだ残っている歯と一緒に普通の歯ブラシで磨いてしまいたくなったり、外すのが面倒で装着したまま普通の歯ブラシで磨いたりしてしまいがちです。ですが、普通の歯ブラシで磨くことはお勧めできません。歯は骨よりも硬く、人間の中で一番硬い物質です。そんな歯を磨く普通の歯ブラシは、柔らかいものでも毛先が硬くできているのです。入れ歯は金属の部分以外は柔らかい素材で出来ているので、普通の歯ブラシは不向きです。
普通の歯ブラシで磨くと入れ歯の土台部分のプラスチックなどに細かい傷をつけてしまい、そこに細菌が付着・繁殖し、歯茎を傷つけます。普通の歯と同様に歯垢も付着します。そんな入れ歯をそのまま使用すれば歯茎が傷つき、細菌などの繁殖により、歯周病になってしまうのです。歯周病になってしまった場合、最悪の状態になればせっかく残っている歯も、抜かなければいけなくなります。そして傷がついた入れ歯も、状態によっては使用できないので、再度新しい入れ歯を作る必要があります。
些細なことのように思えますが、入れ歯には入れ歯専用の歯ブラシで磨くことをお勧めします。せっかく作った入れ歯を大切に長く使用するためには、入れ歯専用の歯ブラシで磨いてくださいね。
歯ブラシと同じように、市販されている歯磨き粉で入れ歯を磨くことは、入れ歯にとってよくありません。市販の歯磨き粉には多くの添加物が入っています。添加物には歯を強くするためのフッ素や、知覚過敏や歯周病予防などの成分が配合されています。研磨剤や発泡剤も添加物の一つです。研磨剤は歯の汚れを落とすのに効果的と言われていますが、歯の一番上の組織であるエナメル質というとても硬い組織を磨くために添加されているものです。
そんな研磨剤入りの歯磨き粉を使用すれば、入れ歯の表面に細かい傷がつき、歯ブラシで磨くときと同じように、入れ歯を傷めつけてしまいます。傷がつくことで、そこに細菌が繁殖し歯垢の塊ができてしまうのです。
また入れ歯にはカンジダ菌が棲みつきやすく、一度棲みつくとカンジダ菌はなかなか除去することができません。その入れ歯を使い続ければ、口腔内が不衛生になり、歯周病になるだけではなく、細菌が気管支や肺に入る誤嚥性肺炎になる可能性も高くなります。
市販の歯磨き粉は残っている歯には使用して構いませんが、その時は必ず入れ歯を外すことを忘れないでください。入れ歯に使用し続けると必要以上に摩耗し、変形や変質するリスクが高まります。一度傷ついたり、変形したものは、噛み合わせなどが合わなくなり使用できなくなります。入れ歯は毎日使用するものなので、リスクを考え、専用の歯磨き粉を使用しましょう。
入れ歯には細菌が多いと聞くと熱湯をかけたり、煮沸消毒をしたくなります。昔から熱湯や煮沸消毒には殺菌作用があるとされてきました。確かに多くの細菌は熱によって死滅します。入れ歯も取り外すことができるので、「熱いお湯で洗った方が汚れは落ちる?」、「洗浄剤は熱いお湯に入れた方が効果がある?」と疑問を持つ方も多いようですが、入れ歯はプラスチックやシリコンなどの樹脂で出来ているため、熱に対する耐久性が弱く、60度以上のお湯で変色や変形をしてしまいます。一度変形してしまうと、元の形には戻りません。せっかく合わせて作った入れ歯が、口に合わなくなります。決して熱いお湯で洗ったり、浸したりするのはやめましょう。
洗浄剤の使用方法にも60度以下のぬるま湯でと記載されています。洗浄剤を使用する際には説明書をよく読み、表示通りの方法で行いましょう。また真夏の車内のような熱い場所や、60度以上になる場所にも置かないでください。熱湯と同じように変形してしまいます。
万が一熱湯をかけたり浸したりしてしまい、変形などを起こしてしまったら、無理に使用はしないでください。合わない入れ歯を使用し続けていると、噛み合わせが合わずに顎がずれたり、口腔内に炎症を起こしたりなど、問題が出てくる可能性があります。まずはかかりつけの歯科医院に相談しましょう。
日々の入れ歯の洗浄では、一般家庭にある漂白剤は使用しないでくださいと言われます。入れ歯がプラスチックなどの場合やクラスプ(金具)があると、漂白剤の種類によっては、変色や変質を起こしてしまう可能性があるからです。
入れ歯を使用していくと臭いや、お茶やコーヒーなどで黄ばんだり、タバコを吸う方であればヤニがついたりと入れ歯の表面が変色してきます。臭いの除去や元の色に戻すために漂白剤を使いたくなりますが、入れ歯の劣化を早める恐れが高いので使ってはいけません。
でも「入れ歯専用の洗浄剤には漂白剤と書いてある」、と思われるかもしれません。それは漂白剤の種類が違うのです。一般家庭用の洗濯用漂白剤にも酸素系と塩素系があると思いますが、入れ歯専用洗浄剤に使用されている漂白剤も違いがあります。洗浄剤に使用されているのは、人体や入れ歯の素材に影響が少ない漂白剤なのです。一般家庭用の漂白剤はより洗浄力が強いものが使われていることが多く、漂白効果は高いのですが人体や入れ歯の素材に影響がでる可能性があります。ですので、直接口に入れる入れ歯の洗浄剤には使われていません。また、入れ歯専用の洗浄剤に漂白剤が入っている場合は、浸しておく時間は短く設定され、きちんと水で洗い流すように記載されています。しっかりと使用用途を確認しましょう。
どの漂白剤入りの洗浄剤を使用できるのか分からない時は歯科医師に相談しましょう。間違えて使用し、変形してからでは大変です。
(参考:入れ歯用洗浄剤の選び方)
入れ歯の種類によっては乾燥させると、変形や変色を起こしてしまいます。乾燥はひび割れの原因にもなり、入れ歯を口から取り外している時は必ず水や洗浄剤に浸けるようにしましょう。口腔内は常に湿った状態にあるので、入れ歯に使用される素材は湿った状態で形がきちんと維持されるようになっています。逆に言えば、乾燥すると劣化が進んでしまいます。また口腔内が乾燥してしまうと細菌のたまり場となってしまうのです。乾燥する季節にインフルエンザや風邪が流行するのと同じで、口を開けていると乾燥して細菌がどんどんと増えていきます。
乾燥によって歪んだり、変形した入れ歯は元には戻りません。そのため入れ歯が合わなくなり、想定より早い時期に入れ歯を作り直すことになります。また少しの間だからとハンカチやティッシュにくるむことは、入れ歯を変形させてしまう可能性が高い保管方法です。包んだのを忘れて落としてしまったり、踏んでしまうこともあるでしょう。ティッシュにくるむとゴミと間違えて捨ててしまう可能性もあるので、硬いケースなどに入れておきましょう。変形するとゆるくなって入れ歯がずれてしまったり、擦れて痛いなどの不具合が生じてきます。
長時間外すときや、就寝時には水に浸すか、洗浄剤に浸しましょう。その際には必ず全体が浸っていることを確認してください。一部でも出ているとその部分だけが乾燥します。また浸した水や洗浄剤は毎日交換するほうがいいでしょう。
(参考:入れ歯の保管方法)
口腔環境を清潔に保つためには、入れ歯や残っている歯だけでなく口腔内全体のケアが大切です。入れ歯をきれいにするのはもちろん、残っている健康な歯、舌や歯ぐき、そして頬や上あご、唇の内側の粘膜を清潔に保つことも入れ歯の手入れと同じに重要なことです。口腔内の環境が悪いと細菌がどんどんと増えていきます。細菌が増えると、食べ物を食べるときに細菌も一緒に飲み込んでしまい、気管支や肺に入ると誤嚥性肺炎を引き起こす恐れも高まります。日々の小さな積み重ねで細菌の数は減らすことができるので、まずは意識して簡単なことから始めてみましょう。
口腔内環境を整える上で、一番簡単な方法はこまめにうがいをすることです。毎食後にきちんと歯ブラシを使って歯磨きができればそれが一番いいことですが、なかなか難しいものです。いくら歯を磨いても、時間が経つと口腔内に残っている細菌は増えていきます。細菌が増えると口臭が気になったり、歯周病や虫歯になったりと、口腔内のトラブルも増加します。
誰にでも簡単に手軽にできる予防方法は、やはりこまめにうがいをしたり、口をゆすぐことでしょう。口をゆすぐことは口の中の粘膜と入れ歯の間に挟まった食べ物のカスなどもきれいに洗い流してくれるので、粘膜の清掃にもつながります。口をゆすぐだけで、入れ歯を装着している人に起こりやすいカンジタ菌による口内炎などの口腔感染症を予防することにもなります。口の中が気持ち悪いなど気になった時には、ブクブクとゆすげば細菌は減ります。食事後などはできれば入れ歯を外して、うがい薬や洗口液などを使用すれば、より殺菌効果を得られるでしょう。
入れ歯は乾燥を嫌いますが、入れ歯をつけている人に限らず口腔内は乾燥を嫌います。口腔内が乾燥すると細菌の数も増えてしまいます。水分を補給したり、口をゆすぐことで乾燥予防にもつながります。また入れ歯を洗浄する時には、同時にうがい薬や洗口液などを使用してうがいをすると、口腔内も清潔に保てます。うがい薬でうがいをするのは、決して難しいことではありません。入れ歯の洗浄時に同時に行えば、時間の節約にもなり、殺菌効果も高まります。
また、うがいをする時にお茶などで行う人がいますが、黄ばみなどの着色を起こすため不向きです。うがい薬や洗口液が無ければ、水で行ったほうが良いでしょう。口臭や細菌繁殖の防止のために、こまめにうがいをすることお勧めします。
歯茎をきれいに保つことは、入れ歯の安定のためにも大切なことです。総入れ歯にして歯が無いから、歯磨きはしなくても大丈夫と考えている人がいるかもしれませんが、それは間違いです。総入れ歯になると、入れ歯は歯茎に乗っているだけの状態なので、歯茎に刺激が伝わらないため、退縮が始まります。退縮とは、使われなくなった歯茎がだんだん小さくなっていくことです。歯茎の盛り上がりが無くなると、入れ歯を作ったときの吸着力が無くなり、入れ歯の安定感が無くなるのです。
歯が無いからと歯茎を磨かず、刺激を与えないでいると、唾液の分泌量が低下し、粘膜の免疫力も下がります。唾液には抗菌作用・抗菌作用があり、唾液の分泌が多ければ、虫歯菌や細菌、ウイルスの感染リスクが少なくなると言われています。
部分入れ歯の方も歯茎はとても大事です。クラスプ(金具)が当たる部分は食べ物のカスや歯垢が溜まりやすく、細菌が繁殖しやすい状態になっています。残っている歯を維持し使用するためにも、歯茎の手入れは欠かせません。万が一にでも歯周病にかかることが無いように、日々の手入れをしっかりと行ってください。
歯茎ケアは入れ歯を外した後に、指に巻いて拭き取るタイプの口腔ケア用ウェットティッシュなどで粘膜の清掃をおこないます。頬の内側や唇と歯茎の間、入れ歯が当たる部分などを拭き取りながらマッサージをすると、より刺激を与えることができます。入れ歯をしている人は、入れ歯をしていない人より歯周病にかかりやすいと言われています。口腔粘膜の免疫力が低下してしまう前に、口腔内を清潔に保つことは、入れ歯のためにもとても重要なことなのです。
入れ歯の治療が終わった後も、定期的にかかりつけの歯科医に通い、口腔内のチェックや入れ歯の具合をチェックしてもらうことをお勧めします。
入れ歯のケアを伝えてきましたが、残っている健康な歯のケアも、合わせて考えることがとても大切です。誰でも1本でも多く健康な歯を残したいものです。部分入れ歯を装着していると、部分入れ歯を支えている両サイドの健康な歯に負担がかかっています。クラスプが常にかかっているため、歯垢が溜まりやすくなります。クラスプには細菌が溜まりやすいため、部分入れ歯の方は虫歯や歯周病になるリスクが高まります。
部分入れ歯の場合は、健康な歯と入れ歯の両方の手入れをしなければならないので、少し大変かもしれません。残っている健康な歯はフッ素入りの薬用ハミガキなどでブラッシングすると、歯も強化されます。また歯間ブラシなどで念入りに隙間も手入れをすることで、歯茎も鍛えられます。クラスプがかかっている歯は特に、歯が欠けていないか確認することが大切です。入れ歯が乗る部分の歯茎は、歯ブラシで擦ると傷がついてしまいます。指の腹や歯茎マッサージ用の粘膜用ブラシなどで、優しくマッサージするようにヌメリを取ります。歯茎の血行もよくなり、指で押されて痛みがある場合や炎症を起こしているなど、早期発見にもつながります。
総入れ歯の方も入れ歯を外したら、まず口をゆすぎ口腔内の乾燥を防いだ後に、ヌメリを取り除くお手入れをします。歯が無くても口腔内の清掃は、細菌を減らすために大切なことです。粘膜は傷つきやすいので、スポンジブラシやガーゼ、口腔ケア用ウエットティッシュなどで、頬の内側から歯茎の間、唇と歯茎の間、入れ歯が乗っている歯茎などを隅々までマッサージするように優しく拭き取ります。スポンジブラシやガーゼを使う際は、口腔内の唾液を吸ってしまうので、ケア後には水でうがいをしてください。最後にうがい薬や洗口液を使えば、細菌の増殖を防げます。
入れ歯と健康な歯を磨くだけで、細菌の数は減らすことができます。合わせて口腔内の清掃をすることで、よりリスクを減らすことになるでしょう。
これまでたくさんの注意事項を記してきました。入れ歯の種類だけでも豊富にあり、何を選んで良いのか悩んでしまいます。ましてやこんなに多くの注意事項があっては、入れ歯は大変だと感じるかもしれません。入れ歯のお手入れは、入れ歯を初めて使う方にとっては戸惑われることが多いと思います。長く使用されている方でも、日々のお手入れはとても大変なことです。使い続けると臭いや着色汚れなど、様々な悩みも出てきます。入れ歯を装着するようになったら、まずは正しい知識を身につけることが大切です。日々の中でほんの少し気をつけるだけで、お手入れも楽になり、細菌による感染リスクも減らすことが出来るのです。
いつまでも快適に過ごしましょう。
>入れ歯の正しい洗い方を実施して口腔環境を清潔に保つには?(その2)